毎週土曜日は、西部アマゾン日伯協会の日本語教室が
朝8時から夕方5時まであるので
時間の許す限り、いろいろな先生の授業に参加するようにしてきた。
ここ数ヶ月は、初級4のタケル先生のクラスや
初級6のナオミ先生のクラスをがっちり手伝っている。
現在600名ほどいる日本語教室の生徒たちは
ほとんどが日本人の血をひいていない非日系のブラジル人だが
日系ブラジル人のなかには
時々、日本で働いていたという人もいる。
リエ先生のクラスにいる年配の女性は
完全に非日系人だが、何年も日本に住んでいたという。
顔立ちはどうみても日系人には見えないので
「旦那さんが日系人だったんですか?」と尋ねたが
答えはノーだった。
日本は、1989年の出入国管理法改正から、
3世までの日系ブラジル人とその家族を無制限に受け入れ始めたのだが
非日系のブラジル人(日本の血をひいていない人)が
どうして何年も日本で働くことができるのかが不思議だった。
そこにはちょっとしたカラクリがあった。
実は、アマゾナス州第2の都市パリンチンス出身の彼女は
本当に幼いころ身寄りがなかったため(あるいは里子に出されたため)
日系人家族に引き取られた。
戸籍上では、日系人になるので日本で働くことができたというわけだ。
何人ものブラジル人を養子にしている日本人家族が存在しているという。
日本にまた行きたい。
日本人と結婚したい。
日本大好き。という彼女。
毎週、日本語教室に通って勉強をがんばっている。
ちょっと心の中にもやもや感もあるが
わしは、みんな平等に応援していきたい。
ここには本当にいろいろな人生を送ってきた生徒がいる。
以前、ナオミ先生のクラスで授業をした時
少し浜松市について話したことがあった。
休み時間になって、ある生徒が
「アクトシティは大きいですね!」と話しかけてきた。
わしゃびっくりしたよ!なんでアクトシティ知ってるんだよ…。
アクトシティ浜松は、浜松駅前にある複合施設であり
静岡県にある建物の中では
地上高が最も高いアクトタワーも併設されている。
ちなみにこの建物は『音楽の街』浜松を押し出すため
ハーモニカをイメージした外観作りが施されており
その中にはブラジルの銀行『Banco do Brasil』もあるのだ。
その生徒、Aさんは、浜松市で働いていたのだった。
駅南にある神田町に住んでいた。
今はマナウス市の工業団地にある韓国の企業で働いている。
「来週は韓国まで出張です。はじめて日本以外の外国にいきます。」
「韓国ですか!いいですね、女性は綺麗だし、食べ物も美味しいですよ。」
「先生。お昼御飯は会社で食べるんですが、韓国料理は苦手なんです。」
なんて教えたばかりの文型を使って話してくれる。
わしは、韓国料理が大好きなので
「えー。うらやましいです!社員食堂に行きたいですよ。」と応えた。
残念ながら外部の人は入れてくれないらしい…。
本当に韓国料理には飢えているのだ。(インド料理にも…)
さて、昨日の授業の休み時間、
Aさんが一枚の紙切れを持ってきた。
「先生。ちょっと教えて下さい。時間いいですか。」
それは、彼の祖父と祖母の戸籍だった。
祖父はサンパウロ州ベラビスタの出身
ところが祖母の出身地がわからない。
戸籍の中に住所がどこに書いてあるのかわからず困っていたのだ。
鳥取県西伯郡大篠津村…
「とっとりけんにしはくぐんおおしのづむら」と読んだが
あとで調べてみたら「さいはくぐんおおしのづそん」だった。
紙切れ一枚だけど、凄い歴史の重みを感じる。
祖父母がどうやって出会ったのか…も興味があるが
孫が戸籍を持ってきて自分のルーツを聞いてきてくれることが嬉しい。
「先生。休み時間の邪魔をしませんでしたか。」
という日本人のような心づかいもとてもありがたかった。
一方、こんな生徒もいる。
昨日の授業に遅刻して現れたのはKくん。
日系人だがマインドは完全にブラジル人。
ブラジル人の中には変ないいわけをする人が多いのだ。
わしは授業の中で遅刻してきた人に向かって
教室にいる生徒全員で「こんにちはー。」と挨拶するようにしている。
遅刻してくる度に、みんなから挨拶されるのは気恥かしいのか
遅刻するひとも減ってきている。効果抜群だ。
ま、とにかくKくんが遅刻してきた。
ある生徒が「どうして遅刻したんですか。」と
これまた覚えたばかりの文型で質問する。
「今日行われるAFCのチケットを買いにいったので遅刻しました。」
ケンタッキーフライドチキン(KFC)みたいだけど違うぞ。
AFCというのは、UFCをもじったものなのかよくわからないが
総合格闘技の大きな大会らしい。
その日の夜9時から
アマデウテイシェイラという1万人収容可能なアリーナで
おこなわれるという。
チケットは60ヘアイス(約3,000円)だ。
なるほど。それはわかった。
変な理由だがしゃあない。
これから遅刻しないように気をつけてくれたまえ。
授業も半分ほど過ぎて、
あと1時間というところになって
再びKくんが
「先生。早退してもいいですか。」と言ってきた。
「え?どうして?」と聞くと教室の隅にきてこっそり聞いてほしいという。
深刻な顔つきのKくんは、ポルトガル語で話し始めた。
「彼女が心配なんですよ。
彼女はパラー州から
たった一人でアマゾナス州に来ているんですけど
今は家に一人ぼっちでいるんですね。
彼女はとてもさびしがり屋なんです。
心配で心配で早く帰ってあげたいのです。」
「うんうん。わかりました。帰ってあげて下さい。
今夜の格闘技の大会も二人でいくんでしょ?」
「それは一人で行きます。えへへ。」
えへへじゃないぞ!にゃろー。
授業早く抜けたいだけじゃんか。
酷いなあ、もう。力が抜けるわ。
とまあ、アマゾンの日本語教室はこんな感じ。
実は、昨日は午前も午後も先生たちの会議があったし
お昼休みを使っての勉強会もがんばったよ。
みなさん前向きで非常にいい感じだ。