『キム牧師ふたたび』
午後5時きっかりにキム牧師の教会にいくと
綺麗に作ったチョコレートのロールケーキと
ポンデケージョ、パインジュースが食卓に並んでいた。
「待っていたよ。」とキム牧師が現れた。
「サン・ガブリエル・ダ・カショエイラは楽しんだかい。」と聞くので
「ええ。年末のイベントに出演させてもらいました。凄い人で楽しかったです。
それからインディオ・ドウやマンジョーカの畑にも行きました。」と答えた。
「それはよかった。
でもね、悲しい事件もあったんだよ。
ここの人たちは一旦アルコールが入ると抑えが利かなくなってしまうんだ。
喧嘩、喧嘩、また喧嘩さ。
君たちが楽しんだあのイベントの夜、少なくとも6~7人が死んでいるよ。」
「え?本当ですか。あの日だけで、そんなに…。
やはり若い男性同士の喧嘩だったんでしょうか。」
「いや、年齢も性別も関係ないよ。今年は40~50代の女性も亡くなった。
この場所は本当に問題が多いんだ。
ところでトシミはおじいさんが牧師でお父さんも教会を手伝っていると言ってたね。
きみはどうして信仰の心を持たないんだ。」
わしは信仰の心をもたないわけではないし
いろいろ誤解を生むのは嫌なのでここには詳しく記さないが
とりあえず自分の意見をキム牧師に伝えた。
キム牧師とはその後も
浜松に住む韓国人を含む外国人の話や日本での韓流ブームの話、
第二次世界大戦当時の韓国人への扱いや戦後の補償についてなど
お話することができた。
ポルトガル語での会話だから100%彼の行っていることは理解できていないけれど
自分の意志ははっきり伝えることができたと思う。
キム牧師はネグロ川に浮かぶ大きな船を持っている。
赤十字のマークが描かれたその白い船には
医師や看護士、歯科医などが乗船し
アマゾンの奥地に住むインディオたちの治療にあたる。
キム牧師はその手助けをしているのだ。
「明日、マナウスに帰るんだろう。
ホテルの前から空港まで無料のバスが出ているはずだよ。
おそろしく古くて、おそろしく汚いけどね。無料だよ。
今から航空会社に確認をとってあげよう。」
キム牧師はお土産までくれた。
そして別れ際に
「天国でまた会えることを楽しみにしているよ。」とがっちり握手してくれた。
ありがとう、キム牧師。また会いましょう。
◆キム牧師の教会はセントロから外れた郊外にある。
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