各住居には電線が通っている。
これならフォホー(ブラジルのダンス音楽)だって
サンバだって聞けるし
テレビドラマだってサッカーだって見ることができる。
大きなアンテナをつけた家もある。
部落の入り口には
ブルドーザーやパワーショベルが並んでいた。
休み明けに工事が再開する。
タンバキーやパクーといった
アマゾン特有の魚を養殖する池を作っているのだ。
ここには、15,000匹の魚を放流する予定だ。
インディオ部落に安定した利益をもたらすためだろうか。
国や州政府やFUNAIと部落とのパイプ役として
こういった事業を取り付けてくるアンテノールさんの手腕が凄いのか
ブラジル政府のインディオ保護の方針なのかよくわからないが
確実に近代化の波は訪れている。
彼らの収入は安定するのだろうけど、
昔ながらの手法で狩りをしたりすることもなくなっていくのだろう。
鉄砲を担いでバイクに乗ってって時点で
もうすでに昔ながらの手法とはかけ離れているんだけど…。
魚も『獲ること』から『育てること』に変わっていくと
本来のインディオの生活とは違ってくるわなあ。
さらに『売ること』に変わるともっとおかしなことになってくる。
金儲けに利用するものも出てくるだろう。
金ってのは厄介なもんだ。
シンプルな家並が続く中
突然、奇麗なガラスで囲まれたモダンな建物が現れてぎょっとした。
エバンジェリコと呼ばれるキリスト教の一派の教会だった。
さっき見た教会より立派だ。最近作られたという。
さらにもう一つの教会建設が進行中。
こんな小さい部落に教会が3つ。
藁葺きの民家の中からは、
ブラジルで大ヒット中の韓国人アーティスト
『PSY』のナンバーが聞こえる。
「オ~♪セクシーレイディ~♪」
家の中にはスピーカーもあるのだろう。
かなりの大音量だ。
ここには、現代の物が溢れている。
『インディオは物静かである。』と
アンテノールさんは言っていたが…。
ううむ。どうだろう。
あどけない顔をした子どもたちが近づいてきた。
「どこから来たの。アクセサリーを買って。買って。」
ちょっとびっくり。時に観光客も訪れることがあるんだろう。
突然、物を買ってくれと言われて戸惑ってしまった。
よくよく考えてみると
この部落にはお店など一軒もないのだ。
バイクがある。
テレビがある。
ステレオもある。
Tシャツに半パンも着ている。
でも貨幣経済もないこの部落でお金もらって
子どもはどうするんだ?
大人に吸い取られるのかな…。
でもって、それでガソリンとか鉄砲の弾とか
付近の街までジャングルを越えて買いにいくんかなあ。
部落には政府の援助で建てられた立派な学校もあった。
七つの教室。七人の先生。
ブラジルの学校がそうであるように
午前クラスと午後クラスに分かれて
子どもたちはここで勉強するのだ。
現在は、夏休み中で校内には誰もいなかったが
壁に貼ってあった時間割で大体の内容は把握できる。
英語、数学、理科、社会などのほかに
インディオの言葉の授業もある。
自分たちの言葉を守り続けていくことは大事な事だ。
ちょっと年長のクラスには
化学や物理などの授業もあった。
壁の時間割にはKyowãのプロジェクトと書いてあった。
キョウワとはカリチアンの言葉で
『子どもの唇』という意味であり部落の名前でもある。
協和。共和。たしかに日本語に似ている。
正確にはキョワンみたいな発音なんだけど…。
「どうだい。すごい学校だろう。
2月、6月、8月それから12月にお祭りがあるんだよ。
子どもも大人もみんなで祝うんだ。遊びに来るといいよ。」
インディオは果たして現代文明と協和できるのだろうか。