ボアビスタ出張。その1
火曜日の深夜12時にマナウスを発ってホライマ州ボアビスタにやってきた。
テーブルマウンテンやエンジェルフォールへの玄関口として知られる
ブラジル最北端の州だ。
午前3時頃にホテル着。
少し仮眠したら朝の8時にはセルジオさんが迎えに来てくれる。
セルジオミズノさんはロライマ日伯文化協会の日本語教育担当。
今日はEMBRAPA(ブラジル農牧研究公社)のイベント
『Dia de campo』がおこなわれるのだ。
郊外の水田地帯を目指して車は進む。
広大な田んぼの空にはブラジルの鳥トゥッカーノが飛んでいる。
言葉では表せないくらいの広さ。
なんてのどかな景色なんだ。
先月の出張時にも訪れたEMBRAPAの農業試験場に到着すると
すでに何人かの人たちが集まっていた。
イベントは予定時間を少し遅れて午前9時にスタート。
まずは、EMBRAPAのトップ、フランシスコ・ジョアシ氏のお話だ。
「ロライマの経済においても今回の研究の成果は、大きなチャンスなのです。
このブラジル北部の熱帯地域で日本米の生産が可能になったら、
近い将来、ここは本当に大きな市場になるんです。」
この日本米の研究に一役買っているのがJICA青年ボランティアのヤスマさんだ。
現在、ブラジルに流通している米は、タイ米のような長粒米が主流だ。
ブランコ川を渡り、ロライマの中心地から約30キロ離れた広大な水田地帯の中にある
農業試験場では、コストを抑え、味も栄養価も高い日本米、の他
赤米、アロマテコと名付けられた香り米など
19種類の米についての研究がおこなわれている。
ヤスマさんは、日本からも東北地方から九州地方まで全国各地の米を
持ち込み、毎日泥だらけになりながら研究を続けている。
去年の12月に植えた種は、すっかり大きくなり
試験田では、豊かな稲穂が風になびいている。
ANIR(ロライマ日伯文化協会)のイザベル会長もスピーチした。
「ANIRがスタートして4年が経ちました。ホライマに住む日本人・日系人のために
始まった団体です。このホライマには100家族、約500人の日系人が住んでいます。
今日は一つの夢が叶いました。
EMBRAPAやJICAの協力があって、このプロジェクトが実現したんです。
みなさんに感謝しています。」
ヤスマさんがそれに続く。
「日本米は生産コストが高いんですよ。
もともと温帯で作られているこの米を気候も異なるところで作ることは、
病気もあるし成長をコントロールすることも非常に難しい。
日本では近年、スパゲッティやハンバーガーなどを若者が好むなど
食文化も変化してきた。しかし、日本食に米は必要不可欠。
日本米というのはアミラーゼが少なくグルテンが高い。
お酒やしょうゆ、味噌などの調味料としても使うことができるんです。」
ヤスマさんはポルトガル語で寿司の歴史や、餅についても解説した。
参加者はこの後、2.5ヘクタールの広さを誇る試験田に移動。
今回の研究発表は多くのメディアにも取り上げられる。
ロライマ州の副知事や農林水産課の課長、地元テレビ局、
そして、サンパウロからもジャーナリストが駆けつけた。
赤米、もち米、ささにしきなどが並ぶ試験田の中、
一番の注目を集めたのは『RR9903』と名付けられた米。
RRはロライマ州の略称だ。
この米はカンピナスから6~7年前に持ち込まれ、
試験場で様々な交配、選別、研究がおこなわれてきた期待の品種だ。
ロライマから車で約3時間、
ベネズエラとの国境の街パカライマで農業を営む日本人
外館さんが教えてくれた。
「これは素晴らしい稲ですね。50年ほど前にベレン近くのガマというところで
米作りに挑戦した人たちがいたんですね。でも雨が多くてだめだった。
今回のこのロライマの米は
おそらくアマゾン地域では初めての日本米だろうね。ちょっとしたニュースですよ。」
ロライマでの稲作は、日本での田植えをする稲作と異なり
種を直に蒔くという方式を取っている。
背丈が伸びない痩せた稲でも駄目だし
アマゾンの陽を浴びて伸びすぎてしまっても駄目なのだ。
丈がありすぎると風雨にさらされたときに簡単に倒れてしまうからだという。
試験田での説明の後、
日本米と黒米を使った料理が一同にふるまわれた。
黒米のパエリア、そして日本のお寿司。
わさびは綺麗に一口サイズのボール状に作られている。
奇妙な取り合わせの米料理をアマゾンの田んぼの中で食べる。
なんとも不思議な気分だ。
収穫が終わるとこの付近一帯は水没する。
そして、また10月11月から少しずつ次の収穫に向けての準備がはじまるのだ。
われわれ日本人の主食であるコメが赤道近くのアマゾンの水田で作られている。
なんとも夢がある話じゃないか。
