子どもたちとしばらく川遊びをしてから宿泊施設に戻った。
広場の大きな樹には
われわれがついた時に鳴らした鐘があった。
近づいてみたら、それは車のホイールだった。
風情がない。
なんだかがっかりだなあ。
この日は、インディオのペインティングを体験する予定だった。
身体に黒や赤の樹液で色を塗るというものだが
悪天候が続いたことによって
染色の材料である果実ジェニパッポの実が採れないという。
(ジェニパッポは肝臓にも効くのだ)
残念ながらペインティングは中止になった。
残念な事が続く。
ダニエラさんが言った。
「朝の散歩にいったら10ヘアイス要求されたのよ。どうしよう。」
さらにわれわれも酋長から話があると呼ばれた。
酋長が話し始め
アンテノールさんが通訳する。
「わたしたちの村は非常に貧しい。そこであなたたちから少し補助がほしいのだ。」
ちょっとびっくり。
お金ほしいってことか。
いったいいくら払えばいいんだ?
で、その金はどこに消えていくんだ?
不透明な事この上ないし、
そのまま酋長の懐に行くような気がして
きっぱりと断った。キリが無いもんね。
ちゅうか、元々お金持ってないよ、こっちも。
せっかく昨日の夜は、
気持ちよく過ごせたのに残念だな。
あんなに晴れていた空も曇ってきた。
ダニエラさんの食糧も尽きたし
(彼女はよく食べる…。)
雰囲気もあんまりよくなくなってきたし
空模様も今一つ冴えないので
部落をあとにすることにした。
あともう二日、三日ここにいたら…
村の人たちと
もっとコミュニケーションを取れただろうなという気持ちが半分。
あともう二日、三日ここにいたら…
村が抱える問題点や
嫌なところがもっと見えてしまうんだろうなという気持ちが半分。
複雑な気持ちで部落を出発した。
帰り道、ジャングルの中にある同じ部族の
もうひとつの小さな部落を見学することができた。
われわれがお世話になった部落よりずっと小さくてシンプルだ。
窓から顔を出した男がわしの顔を見て
「ジャッキーチェン!」と言った。
その男の顔もアジア人のようだったので
一緒に写真を撮った。
帰りの車の中では
アンテノールさんとジョゼマリアさんに
カリチアン族の言葉を教えてもらった。
喋ってないとなんだか気分が重くなりそうだったのだ。
「道は『パッ』、空は『パッピ』
雨は『エッ』、水たまりやイガラペ(小川)は『エッサ』
家は『アッピ』だよね。」
「きみはなかなか記憶力がいいねえ。わっはっは。」
でも頭の中では別のことを考えていた…。
ゴミの問題。
教育やしつけの問題。
一部のものにお金が流れる仕組み。
これってインディオの問題じゃなくて
ブラジルの問題なんじゃないか?
いや、日本だってそうか…。
またしても崩れた橋を迂回すること2回。
ジャングルの赤土の道をひた走り
やっと牧場が見えてきた。
アスファルトの道だー。
わずか1泊2日の滞在だったけれど
考えさせられることだらけで
まったくリラックスできなかったな。
いや。でもいい経験した!
信じられないくらいの土砂降りの国道を
三菱の4WDはひた走り、
われわれはポルトベーリョ市内に再び戻ってきた。
アンテノールさん、ジョゼマリアさん、
そして旅を続けるダニエラさんに別れを告げた。
嗚呼、
この後すぐにマリザさんに連れていってもらったレストランの
美味かったことといったら!
もう何年も食べていなかったかのような空腹感は
胃袋にかきこんだフェイジョアーダとともに
ずずずずーと満たされたけど
もやもやした気持ちは晴れないまま
また、いつもの生活に戻ってきてしまったよ。
(おしまい)