1月2日。
朝7時起床。
昨夜の夕飯の残りのピザをアセロラのジュースで流し込む。
正月2日目だが、ふだんと同じように街も活気を取り戻しつつある。
朝8時に開くであろうFOIRNに向かって歩きはじめた。
昨日歩いている間にお気に入りのAC/DCの帽子を落としてしまったので
どこかに落ちていないかと探しながら歩く。
もしAC/DCの帽子をかぶっているサン・ガブリエル・ダ・カショエイラ市民がいたら
それはわしの帽子だからね。
予想通り8時に到着しても誰もいない。
リオネグロのインディオ協会連盟であるFOIRNだけあって
いろいろな相談に訪れるものも多い。
30分ほど待つとアブラオンさんという一人の男性が現れた。
職員のひとりだ。
「インディオの部落にいく許可証が欲しいんですけど」
と伝えると、今用事を済ませてくるから待っているようにと言われた。
9時過ぎになってアブラオンさんが戻ってきた。
「で、どうしたいんだい。どこの部族のところに行きたいのかな。」
「えーと、うちのよめさんは陶芸家なんですが
インディオの作る工芸品に非常に興味があるので作っているところを見たいのです。
先日、トゥッカーノ族の女性に会った時にここで証明書をとるように言われたんです。
これが彼女たちの電話番号です。」
「そうか。許可証は出せるが、個人で行くのには時間も金もかかるぞ。
まず、トゥッカーノ族のところや陶芸を得意としているバニワ族のところに行くには
行き帰りだけでまず2日間はかかる。ボートの船頭を自力で見つけて交渉して
行き帰りのガソリン代などを考えると400ヘアイスから500ヘアイスはかかるぞ。」
「ううう。そんなに簡単には行けないもんなんですね。いちばん近いのはどこでしょう。」
「空港方面をさらに進んだところにはバレ族がいて、植物を編んだ民芸品が有名だ。
そこなら許可証もいらないよ。」
「なるほど。知り合いに聞いたんですがインディオ・ダウってところがあるそうですね。」
「インディオ・ドウだね。そこはホントに近いよ。すぐに行ける。
知り合いがいるから、今から行ってみるといい。」
そして、われわれは別の職員の車に乗せられて
インディオ・ドウで働くスタッフのうちに連れて行ってもらった。
Indio Dâwと表記するため
わしはずっとインディオ・ダウだと思っていたが違ってたようだ。
民家から出てきた7歳くらいの少女に
インディオ・ドウについてポルトガル語で聞いたがまるで通じない。
そういえば、インディオ・ドウには
ホザーニさんっていうモイゼスくんの知り合いが働いているはずだ。
「ホザーニさんって知ってる?」
「知ってる。知ってる。その角を右に曲がって
次の角を左に曲がって進んでいくとパン屋さんがあるんだけど
その向かいに大きな家があるからそこだよ。」
ありがと。
教えられた家にたどり着くと眼鏡をかけた女性が笑顔で出迎えてくれた。
「あら。こんにちは。」
「ホザーニさんですか?」
「そうよ。まあ、とりあえず中に入りなさいよ。」
わしは、今までのいきさつを説明した。
もちろんモイゼスくんのことも。
「えー?本当?モイゼスくんの友だちは私の友だちよ。
間違いないわ。」
わしはモイゼスくんの携帯番号を教えた。
ブラジルにはTIM、VIVO、CLAROなどの携帯電話の会社がある。
わしが普段使っているのはJICAから支給されたVIVOの携帯。
ところがここサン・ガブリエル・ダ・カショエイラでは
VIVOは全く使えないのだ。使えるのはTIMのみなので
この旅行中は一度も携帯を使えないでいた。
すぐにマナウスのモイゼスくんと通話することができ
ホザーニさんも久しぶりの会話に嬉しそうだった。
ホザーニさんとの話で
インディオ・ドウのドウとはもともとある部族を表す言葉だということ
インディオという言葉はポルトガル語では差別的な要素を含んでいるので
会話ではインディジナという言葉を使った方がよいこと
インディオたちは言葉の問題、差別の問題、アルコールの問題などを抱えていること
とくにアルコールの問題は深刻で数年前までは女性や子供にも及んでいたこと
それを解決しようと尽力したのがモイゼスくんの両親であること
現在、インディオ・ドウの施設には40人あまりの子どもたちがいること
音楽や美術を生かして子どもたちの興味が
アルコール依存に向かないように努力していること
ホザーニさんは、今までは対岸に住んでいたが
今はサン・ガブリエル・ダ・カショエイラ市内にも
家を持ち、往復して仕事をしていること…。
などなどいろいろなことがわかってきた。
ぼくはモイゼスくんの話から
彼女は川の向こう岸に住んでいると思っていたので
こうやって出会えたことにすごく感謝している。
「今夜9時にここにもう一度来てよ。
川の向こうに渡って一晩過ごしましょう。
夜の川を渡るのは怖い?大丈夫よね。
あ。ホテルはセントロのほうだよね。
お金渡すから5リットル分ガソリン買ってもってきてくれると
嬉しいんだけどいいかしら。」
「もちろん、OKだよ!」
「もし今夜雨が降ったら中止ね。また明日にしましょう。
ここの住所を書いておくわね。私の名前はホザーニだけど
ここではインディオ・ドウのホザーニ、略してホザ・ドウって呼ばれているの。」