時刻は12時40分。
日射しがきつい。
赤道から3度南のマナウスから少しずつ北上してるんだもんなあ。
そりゃ暑いわな。
後部座席に移動すると
売店のおばちゃんとその旦那さんが
クロスワードパズルに熱中しているところだった。
旦那さんの顔はどう見ても日系人のそれだったので
「日系人ですか。」と聞くと
「ノグチデス。」とたどたどしい日本語で返事が帰ってきた。
彼の話した日本語はこれだけ。でも十分。
なんか嬉しいじゃんねえ。
この船のオーナーであるノグチさんは、お父さんが日本人だという。
「これで合ってるかなあ。」と恥ずかしそうに
自分の名前をカタカナで書いてみせてくれた。
売店のおばちゃんがわしの顔をまじまじ見て一言。
「あなた、前にパリンチンスに行ったことあるでしょ。覚えてるわよ。」
「あれ?Taylor Noguchiって…。まさか同じ船?
途中でエンジンが壊れたよねえ。
このシャワーのところにゲイのひとたちいっぱい乗ってたよねえ。」
「あははは。そうそう。同じ船よ!」
うわ。びっくりだ。
この船はマナウス~サン・ガブリエル・ダ・カショエイラ間の定期船だ。
6月のボイ・ブンバの時だけ特別に
逆方向のパリンチンスまで航行したのだろう。
これまた嬉しい驚きだ。
船の中では読書を楽しもうと思い
何冊かを持ち込んでいた。
なんてったって、
時間は27時間もある。
結局、永武ひかる著『アマゾン漢方』と半村良著『異邦人』の2冊を読破した。
アマゾン川に吹く風が気持ちよい。
水面に映る景色はすべてシンメトリーで
ジャングルの上を鳥のつがいが飛んでいく。
しかしながら
調子こいて船首で寝転びながら読書していた代償は大きい。
すっかり日焼けしてしまったよ。
特に左のでこは痛みを覚えるほどのアマゾン焼けだ。
日も落ちかけたころ
サン・ガブリエル・ダ・カショエイラ市内で雑貨店を営んでいる
ホベルトさんが指差した。
「ほら。トシミ。見てごらん。クリクリアリ山脈。
眠れる森の美女だよ。サン・ガブリエル・ダ・カショエイラはもうすぐだ。」
船の前方に小高い山がいくつか見える。
クリアリア山脈は女性が横たわっている姿に見えるため
別名『眠れる森の美女』と呼ばれているのだ。
時刻は7時。
ようやくサン・ガブリエル・ダ・カショエイラの港に着いた。
暗闇の中、船から積み荷を降ろしてもらいタクシーでセントロを目指す。
セントロまでは22キロ。
60ヘアイスってのが相場らしい。ちょい高めだが従うしかないな。
「ここが大学。ここが軍隊。このレストランは旨い。」
よくしゃべる運転手だった。
(後日、60ヘアイスってのはかなりの高額だということがわかるが後の祭りだった)
ホテルはセントロのど真ん中にある。
夕飯は街の外れにある食堂街で干し肉と鶏肉を食べた。
それにしても贅沢な一日だった。
なんもせんと24時間経ってしまったよ。
◆ノグチさんは恥ずかしそうに自分の名前をカタカナでノートに書いてくれた。
◆ネグロ川に写る景色は水面を軸に対称に見えるから面白い。
◆夜中にやっと到着。1064キロ、27時間の船旅が終わった。港には電気もないし足場も悪い。
